乗りきれない青春時代

ピーピピピー
「そこの二人乗り、降りなさい。」

警察官の笛と注意が響き渡る。

顔面卑猥で平日昼間にどこからどう見ても不審な僕。
右肩に女性が乗っているとよく言われる僕。
徒歩の僕。

とりあえず謝っておこうと
「はいはい、すいません。しかしあなたは見えるんですか。男の人に乗っていると言われたの初めてなもんで。いやー、降ろし方知ってたらむしろ降ろしてもらいたいんですけど。あはは。」
などと訳のわからないことを言いながら振り返ってみると、学生服の男女が乗った一台の自転車が止まる。

女の子を後ろに乗せて走っていたその男の子は
「すいません。」
と警察の方にペコリと頭を下げて女の子を降ろした。

僕に向けられた注意ではなく、この学生服の男女に向けられた注意だったのである。

警察はそれ以上注意することなく、
「ダメだよ、気をつけてね。」
と軽く諭して見送り、その男女は
「はーい。」
と素直に謝り、自転車を押しながら歩き始めた。

話の途中だったのか
「どこまで話したっけ?」と確認する男の子。
「えー、じゃあもう一回最初から♪」
イタズラに微笑む女の子。

「この話途切れたらイマイチなんだよなー。じゃあ別の話にしようか。」
「うん♪」

多分二人は付き合っているかそれに近い相思相愛の仲なのだろう。
フリスクの黒とメントスを同時に口に入れたらきっとこんな感じに爽やかなんだろうなと思うと同時に、小学校3年生の時に少年野球チームで生まれて初めて背番号26をもらった当時の僕よりも初々しい二人を見ていると
「あんな時代もあったなぁ。」
とノスタルジーに浸るのが普通のおっさんの感覚かもしれないけれど、バイトがオフでやることもなく平日昼間からふらふらとコンビニに向かっているのか死に場所を探しているのかもわからない僕には“あんな時代”などなかった。

警察に笛を鳴らされたのが自分だと思い込むのも無理はない。

“あんな時代”どころか、そもそも生まれてこのかた女性を自転車に乗せたことがない。
右肩には女性が乗っていると言われるのにね。

「え?なんで経験ないの?」
というQに対しては、
「好きな女性を危険な目に遭わせたくないし、歩く方が時間がかかるから一緒に居れる時間が長いっしょ。そもそも法令を守れない男が彼女を守れるわけないっしょ。」
などと、キスマイフットも真っ青のAを用意しているわけですけど、
二人乗りは禁止されているし危ないからもちろんダメなんだけど、できることなら経験したかった。
中学校や高校、最悪予備校時代ぐらいに。

中学校は自転車通学が禁止されていたけど、こっそりと近くまで使用していた僕。
なぜ野球とウィニングポストとダビスタと大スポとギルガメッシュナイトに精力を注ぎ込んだのであろうか。
そのうちのほんの10%でも女の子を自転車に乗せることに振り分けていればチャンスがあったかもなかったかもしれない。

高校はバス電車通学だった上に、体育会系といっても過言ではないほどの、しかももし帰宅部の全国大会があればベスト4には残っていたであろうほどの全力の帰宅部だった僕には女の子を自転車に乗せる機会はなかなかなかったかもしれないが、バス電車を使わずに自転車通学をしていたらどうだろう。

NAVITIMEで調べてみると24.5kmで約2時間30分かかる模様。

高低差450メートル。

そりゃ生駒山を越えるわけだから当然なんだけど、二人乗りで生駒山を走破できたらミスター競輪こと中野浩一さんの植毛が全部抜けるぐらいえらいことですわ。
では生駒山を迂回するルートをとってみよう。
なるほど、3時間20分か。
馬や鹿は生まれて1時間ほどで立つらしい。ましてや3時間で駆け足までできるようになるという。
馬や鹿ってすごいなぁ。
そう思うと女の子と二人乗りするのにそんなに時間をかけることがまるで馬鹿みたいだ。漢字ってほんとすごいわ。

予備校もバス電車通学だったが現場周辺をウロウロすることが多かったので現地にチャリを確保するのも有益だった。
なのに、かまど屋のから揚げ弁当とマンガ喫茶の毎日でクズみたいな日々を過ごしていた。
ほんの20%でも勉強に、ほんの30%でも二人乗りに精力を注いでいたらと思うと、林先生の「今でしょ。」が心に染みる。じぇじぇじぇ。

大学は山の中腹だったので自転車など有り得ないわけで、そもそも大学生でチャリ2ケツは逆に恥ずかしい。
やはり制服時代に二人乗りを経験したかった。

と書き連ねていると
中学校時代に二人乗りで警察官に注意されたことを突如思い出した。

住宅街でほとんど人通りのないところを蛇行運転しながら遊んでいるようなスクーターが走っているのが遠くに見えた。
「あれ、絶対警察やんな?あんなもんあかんやろ。」と二人で言っていると
僕たちに気付いたのか蛇行運転を止めて、元スマップの森くんよりも速いんじゃないかと思うぐらいの猛スピードで近づいてきた。

「はい二人降りてー。伸長差がすごいな!でこぼこコンビやな!で、その後ろに担いでいるのは何?今から喧嘩にいくの?君らそこの○○中?」

みやね屋のASKA以上にヤク中が疑われるぐらい、とにかくまくし立てるように色々と喋りかけてくる今の時代なら確実アウトの警察官。

「いや、あの、学校裏の打ちっ放し場に行こうと思ってゴルフのクラブです。」

「中学生でゴルフ!岡本綾子になるんか!」

ちなみに僕らは男二人だ。せめてジャンボ尾崎かジェット尾崎ぐらいだろうよ。
今となってはそう思うわけだが、とにかくすべてがぶっ飛んでいる警察官に圧倒されている間に
「ダメだよ~、気をつけてね~。ダッメだよぉ~。」
欽ちゃんばりに絶妙な「ダメだよぉ~。」を言い残して蛇行運転で去っていった。

そんなくだらない話が永遠に続くかも続かないかもしれない忘年会を開催します。



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会場のキャパ的に10名程度が限度ですが、どうぞご検討ください。
未成年不可。