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金曜深夜の谷町線

金曜日の終電間近。
品位の低さ丸出しの中年と壮年の二人が乗ってきた。

中年は往年の芋洗い坂係長を5割り増ししたような巨体。
壮年は一見イケメンの雰囲気を醸し出しつつ酒に酔ったような赤ら顔で下品感丸出しである。

「嫁さん大丈夫か?」
唐突に芋洗い坂係長が喋る。

「何回か電話かかってきましたけど無視してます。」
雰囲気イケメンが喋り出す。

この雰囲気イケメンが髪型で隠しているけどとんでもないハゲ。
頭皮の2/3がハゲているけど残る頭髪を巧みに伸ばして前髪と横髪に代用してイケメンの雰囲気を醸し出している。
まぁこれはこれである意味すごいんですけど。

芋洗い坂係長が喋り出す。
「浮気疑われてるんちゃうん?」

雰囲気イケメンといえどもよく見るとイケメンでもないし、よく見なくてもハゲている。

「そうなんですよー、こないだも大変だったんですよー。」
イケメンでもないイケメンが口を開く。

イケメン風のハゲは浮気の前科があり、今現在も浮気の最中のようである。もう下火とはいえ今年の流行を取り入れるゲス。

「色々とややこしいから気を付けろよ。」
絶対に素人童貞であろう芋洗い坂係長が忠告する。

「いやー、それにしても今日の子かわいい子が多かったですねー。」

ハゲと芋はどうも女の子たちと酒を飲んでいたらしい。

「お前、あの赤い服の子いけるんじゃない?」
忠告していた芋がまさかの焚き付け行為。

「やっぱりそう思います?僕もそう思ったんですよー。色々と気遣ってくれましたし。」

お前のハゲ具合に周りの人間はもっと気を使っているんだぞ!と言いたかったけども、僕もさすがに大人なので思うだけにした。

「絶対にあの子はお前に興味あるぞ。確実にセ○クスできる。」

芋洗い坂がついに言いよった。
金曜の混んでる電車で言いよった。
もうどれぐらい童貞を貫いているのかわからない僕の前で言いよった。

「あんなブスやりませんよ。」
ハゲが言いよった。童貞の僕の前で言いよった。嫁から電話がガンガンかかってくるのに、浮気の前歴があって疑われているのに、そんなハゲがブスを理由にセ○クスしないと言いよった。

頭髪の毛量がセ○クスできる回数とするならば、この雰囲気イケメンはあと2~3回しかできないはずだ。
それに対してもう少しマシな薄らハゲぐらいの僕は20~30回セ○クスしてもおかしくない。
なのに童貞だ。絶望的に童貞だ。

視点を変えると、雰囲気イケメンは毛髪と引き換えにチ○コがちぎれるぐらいセ○クスをしてきたから今ハゲているのかもしれない。

じゃあ僕はなんだ?

絶望的に童貞を貫いてきたのに薄らハゲだ。僕は何と引き換えに毛髪を失ってきたのだろうか。
完膚なきまでの使途不明。
毛髪マルサが査察に入れば言い訳無用で即逮捕の使途不明。
脱税ならぬ脱毛である。いや抜いてないから脱毛はおかしいか。そもそもヌイてないんだから毛髪があるべきなのだ。抜いてもないしヌイてもないのに薄らハゲ。絶望的に使途不明だが、情状酌量の余地があっても良いのではないだろうか。

毛髪マルサ
「おい!毛髪をどこに隠した!」


「あのー心当たりがなく気付けばこんなことになっていて・・・」

毛髪マルサ
「嘘をつくな!何もなくてそんなことにならんだろ!やったんだろ?はけ!はけ!ハゲ!」


「やってません。」

毛髪マルサ
「やってないわけないだろ!その毛髪が証拠だろうが!ハゲ!ハゲ!はけ!」


「それでも僕はやってない。」

冤罪ってこんな感じなんだろうなーと考えていると、雰囲気イケメンが何やらまだ喋っている。

「また嫁からですわ。ちょっと出ます。何回もなに!?先輩と飲んでたんだよ!女の子なんかと飲んでない!浮気なんてするわけないだろ!今電車で帰ってるから!」

芋洗い坂
「結構言うねー。」

雰囲気イケメン
「あれぐらい言わなきゃわかんないんすよー。ところで赤い服の子、僕いっちゃっていいですか?とりあえずまた月曜日!」

ほんの数分前、あんなブスとやらない、と言い放ったその赤い服の子にいっちゃう宣言。
そう言うと雰囲気イケメンだけが降りていった。

「おう!」

手を挙げて後輩を見送る毛髪たっぷりの芋洗い坂のスマホには風俗検索の画面が映し出されていた。

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